柿の木のある家にお嫁に行きたいという希望が、かないました。

柿好き

柿の木のある家にお嫁に行く、そう決めていたくらい、小さいころから、柿が好きでした。たくさん食べると、冷えるとか、お腹を壊すとか言いますが、私のお腹はいくら食べても大丈夫なのです。

大学に入ったばかりの年でした。ちょっぴり好意を持ちだした、同じゼミの男子学生のお宅に初めて訪ねて行きました。といってもゼミの帰りに一緒に帰ったのです。

夕闇のあの秋の黄昏が迫る東京の中野でした。商店街を通った時、「何か飲み物を買って行かないと」と立ち止まって彼はカルピスを買いました。

「カルピスは初恋の味っていうから」ふざけているのか、真面目なのか平静に言う長身の学生服の彼の言葉に、私の幼い心は踊りました。

「もしかして、この人も私に好意を持っているのかしら」

大きな両開きの玄関の彼の家に着くと、二階から走るがごとく、誰か降りて来ました。

薬剤師の国家試験のために猛勉強中のお姉さんだそうでした。そのうちに弟さんや次のお姉さん、お母さんも帰って来て、私を迎えてくれました。

池の鯉を見せてもらっていたようですが、きっと柿が好きだと私が言ったのでしょう。ほの暗くなった庭の隅に佇む背の高い柿の木から、彼は柿をいっぱい取ってくれました。

富有柿ではなく、少し丸かったと思います。広々とした廊下が続くお座敷の床の間の前で、私にその柿を勧めてくれましたが、私はうまく果物ナイフが使えず、剥けませんでした。

それを見た彼は、「政治学なんてやらないで、家政科にでも行って果物の剥き方をまず習うんだな」とつぶやきながら、なんとまあきれいに剥いてくれるではありませんか。

まず始めに蔕の部分をくり抜いてすっかりきれいに、スルスルと皮が途切れないで長いリボンになるように剥いていきました。

女子の社会的地位向上、ボーボワールなどに興味があったウーマンリブの走りの私にとっては大変にショックなはずの彼の言葉ですのに、あまりにも上手に剥いてくれたためでしょうか。

私は何の反論もできずにただ黙ってそのお手並みに見とれていたようです。

その後6年間の間に甘酸っぱいカルピスの味は、どんどん濃くなって、ついに周りの反対を納得させ、韓国人と日本人の私という、当初は考えられなかった夢が実現し、結婚したのです。

そして渡米、日本社会で国籍などとやかく言わないで受け入れてくれるだけの技術を習得して帰ろうと、二人で働きながらの勉強で、日本人を知ることもなく、また日本人町で見かけても高嶺の花の柿でした。

秋の香りのしないカリフォルニア、柿のない秋、私にとっては心寂しい秋でしたが、そのたびに日本に帰れば中野の家に柿の木が待っていると思っていました。

米国に永住

その後、夫は市民権を取り、米国に永住することになりました。そしてその間に柿はカリフォルニアでもポピュラーになり、私が柿好きなことを知った教会の方々が毎年くださるようになりました。

中野の家にあった柿よりも見事な富有柿です。昨年はどのお宅でも成り年だったようで、夢でうなされるのではと思うくらいたくさん、あちこちからいただきました。

今日も夫はいただいた柿をあの時のように、まず蔕をくり抜いてきれいに剥いています。自分が食べるかと思ったら、いまだによく剥けない私に「はい」と手渡してくれました。

結婚してから12回引っ越しました。すでに中野の家は売却されています。今住んでいるところが終の住処だと思うので、今回、柿の木を植えることにしました。

皆さんにいただいた分、我が家の柿の木が大きくなってみなさんに秋の味をお届けできる日が来るでしょうか。8年かかるかな?

柿の木のある家にお嫁に行きたかったという願いが実現したことになります。

竹下 弘美


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“柿の木のある家にお嫁に行きたいという希望が、かないました。” への5件の返信

  1. 長い結婚生活の中まだまだのろける話題があるのですね。当方は田舎育ち 秋のおやつは 柿でした。オテンバな私は木に登っては毎日のように食べてました。あと どんなところから名前が付いたのか,山の中にできるテンポー梨 形は タマリンのようで味がなしの味です,アケビも食べ放題 なんともワイルドな子供時代でした

    1. まぁ ご馳走様! 今でも柿をむいてくれるのですね、
       ロバートさんが柿をむいている間二人の心は初めて
      のあの頃に帰る甘酸っぱい思いがよみがえる何て
      ロマンチックではないですか!
      お好きな柿の絵さすが いいね!

      1. 杏子さま

        柿を剥いてくれるのは、私があまりにもブキッチョで見ていられないからです。彼の心の平安のためでしょう。運転を私にさせるとイライラするのと同じだと思います。

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