愛のひとさじ 

全部ローマ字のこんなメールが届いた

「ひさしぶりです。おばちゃん、元気ですか?私は元気です。今日は御願いがあってメールを書かせてもらっています。実はおばちゃんのケーキのレセピーを教えてもらえたらと思って。おばちゃんが、前にいつも私達のバースデーに作ってくれたケーキです。ストローベリーとキウイが入っていたケーキです。凄くミスしてるんです。我慢しようと思ってずっとメールしなかったんだけど、ヤッパり食べたい!!作り方教えてくれませんか?御願いします。レセピーの本とか見ても、違うのよね。何で?日本のクックブックとか見ても違うのよ。御願いします。作ってみたい!!ごめんね。急にこんなこといって。できたらでいいんです。御願いします。バイバイ ローラ」

全部ローマ字のこんなeメールが届いた。差出し人は私が昔母親代わりをしていたことのある南加にいるニ十代の日系のお嬢ちゃん。日本語が堪能で、私に英語ではなくローマ字で書いてくれるのだ。そのころ、彼女は小学生、お姉さんは中学生だった。お母さんが癌の治療のために日本に行っていた間のことで、もう、十五年も前のことになる。

先生との成績懇談会にもいったことがあるが、お料理の上手なお父さんといたので、私はただ、毎週一度、水曜日にスパゲッテイを作りに行った。そして、御誕生日には、いつもこのケーキを焼いて。でもそんなに喜んでいてくれたとは今の今まで、知らなかった。

こんなにまで、私のケーキをこよなく愛してくれていることにジーンとした。たしかにあのレセピーは子供がいないころ、夫と研究して、卵の量をふやしていって成功して作りあげたレセピーである。日本のケーキやさんのショートケーキのようにできるようになってそれだけは今でも我が家の子供達にも、喜ばれている。

寛大な母のもとで

結婚前、「しなければならない時がくれば、しなければならなくなるから、今しかできないことをしなさい。」という寛大な母のもとで、何ひとつ、家事をしたことのなかった私だ。

靴は脱いでおけば、磨かれて出てくるし、洗濯物は脱いでおけば、アイロンがかかって着るばかりになっているというように、全部、母におんぶだった。けれど同じように母になんでもやってもらっていた、五歳年上の姉が、婚約したと同時に豹変したのを私は目撃していた。

姉は婚約者ができたとたんに、御料理を始め、編物までやるようになり、私も愛する対象ができれば、やれるのだろうとたかをくくっていた。ところがどうして。愛する対象は現れたにもかかわらず、今だに千切りとか、果物を薄くむくこととか、できない。愛の対象に対する愛が乏しいのだろうか。

私のむいた後の果物の皮を夫はまたむくくらい私がむいた皮は厚い。ついこの間まで、同世代の友人達もきっと皮むきや千切りなどできないだろうと思っていたら、できないのは私だけではないか。これはどうしたことか。皆、いつ習ったのだろうか。

絶対にひがんだり、落ちこんだりすることのない私だが、このごろ、駐在員の奥さん達の素晴らしい手料理を目にすることが多くなると、さすがの私も少し、御料理に対して劣等感を持つようになった。彼女達のすることは、きくだけでもため息がでそうなほど、手がかかっているし、デリケートで美しい。

もちろん、彼女達はフランス料理やイタリア料理のクラスをとっているのだが。私はといえば、教会にくる多くの青年達に満腹になるようにと大量の食事を作ることばかり、やってきたからか、速さと多さにしか自信がない。

子供達が巣立ってから、おふくろの味といえるものが私の御料理の中にあるだろうかとこのごろ、自問いし出していたところだ。そんな時に来たeメールである。そうだ。私にもこのケーキがあるではないか。ふるいたって元気になった私は早速ローラにメールの返事を書いた。

愛のひとさじ

「小さいケーキ型だったら、卵五個、白味と黄味にわけて、白味をビーターで固く角がたつくらい泡立てる。泡立てながら、御砂糖半カップを徐々に混ぜていく。ひっくり返しても落ちないくらいかな。

これさえ、しておけば、失敗なし。そこにかき混ぜた黄味を入れる。粉半カップをふるいながら、さっくり混ぜる。そして、ワンスプーンフルオブラブ(愛のひとさじ)を最後に振り入れる。

これが一番大事。これが、他のレセピーブックにあるケーキと違う所。三百五十度のオーブンで、三十分。最後に二百五十度に温度を下げて十分焼く。生クリームは液状のヘビイのを買って泡立てる。横に半分にナイフを入れて中に生クリームを塗って適当にキウイや苺じゃなくてもいいの、水分の出ない果物をはさむ。

ローラから、すぐ返事がきた。「ワンスプーンフルオブラブね。それが、コツなのよねー。作ってみる。おばちゃん、ありがとう。」

どなたかの御料理の本のタイトルに「愛のひとさじ」というのが、あったと思う。そうだ。なんでも愛のひとさじが肝心なのだ。簡単なお料理でも。しばらくしてから、ローラに「作った?」とメールを出した。

「作ったよ。、マミーが日本から来てる時、作りました。マミーが、なつかしい味だって言ってました。たしかになつかしかった。おばちゃんのこと思い出してた。よろしくって。」あの時、もう、余命いくばくがと思われたローラのお母さんは癌がすっかり直って日本に住んでいる。

「やっぱりあのケーキがおいしいのはワンスプーンフルオブラブのせいね。私もマミーに食べさせたいと思って心をこめて作ったもの。おばちゃん、あのころ、自分の子供二人が、小さくて大変だったのに、私達のことまで、よく面倒みてくれて、ありがとね。」

このごろ、あのケーキを焼くこともなくなっている。そうだ、いつもはバースデーにしか作らないのだが、特別、愛のひとさじを入れて近々焼いてみよう。夫が単身赴任から、帰ってくるのにあわせて。

竹下弘美


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“愛のひとさじ ” への2件の返信

  1. おばちゃん、懐かしいです。(^^) 今でもたまにおばちゃんのケーキを思い出します。Recipeもまだ持ってます。おばちゃんから貰ったRecipeに1 spoonful of Loveって書いてたのはっきりと覚えてます。このケーキの味は一生忘れません。第二の母の味です。(^^)ありがとうね。

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