愛する対象がいることは、愛されることよりも人を幸福にする

迷い猫

これもかなり前の話になる。教会の夜のミーティングに行った時のこと。しばらくして外で猫の鳴き声が聞こえ始めた。一向に止まないで鳴き続け通しだ。猫人間の私はミーティングは上の空。外の猫のことだけが頭を占めた。

一方ではミーティングが終わる時までにこの猫がいなくなっていますようにと願いながらも、もし、まだいたら、絶対に連れて帰ろうと心に決めた。というのも、ちょうどそのころ、会社の友人、Mさんに猫を飼うことを薦めていたので、あわよくば、Mさんに飼ってもらえたら、と思ったからだ。

Mさんはご家族は日本で、アメリカでは一人暮らし。時々ホームシックになるという。猫はそんな彼女に最適ではないか。それに彼女のコンドミニアムは、猫を飼うことが許されているということまで知っていた。

もし彼女が飼ってくれなかったら、その時にはすでに我が家に一匹いるパフの友達になってもらおうと、たかをくくった。これは私が小さい時に描いていた夢だ。母に捨て猫を見ても、拾ってはダメと言われていたので、大人になったら、捨て猫を見つけたら、拾いたいと思っていたものだった。

ミーティングがすむやいなや、私は外に飛び出した。居た、居た。細身の中猫が、人を畏れもせずに寄ってきて、鳴きつく。すぐ抱っこした。たしかに誰かに飼われていたのだろう。とても人なつこい。模様がなんとも美しい。ひげが切られていて、お腹をすかせているようだ。

きけば、その前日、誰かが捨てていったらしいという。教会だったら、拾ってくれる人がいるだろうと思ったのか。夫もすんなりと私の選択を認めてくれた。というのも、かつては犬党だった夫も私の感化(愛の成果?)で猫党に変わっているからだ。

家路の途中も普通の猫と違って怖がらず、車中から窓の外を眺めていた。犬のような性質だ。家に帰るやいなや、どのようにこの猫と、もとからいる猫のパフとを共存させるかを以前きいていたので、それに従って、この猫をまず一つの部屋に隔離した。 

ところが、姿は見えないのに、あまりにも鳴くためにパフは連れてきた猫の存在に気づき、閉めてあるドアの前で唸っていた。拾って来た方は人が恋しいのか、鳴き続け、前足をドアの外に出していた。ものすごく食べた。私が撫でてあげるとようやく安心したのか、丸くなって寝た。きっとこのところ、安眠していなかったのだろう。

すぐMさんに電話をして、翌日会社の帰りに見に来てもらった。彼女は猫を飼うのは初めてだという。家を空けることが多いので、飼う自信もないと言う。でもその美しさにはほれぼれ。耳がとんがっていて、身体は細身。ベージュの地にすてきな縞だ。

ウエブで調べると、ブリティツシュ・ショートヘアの血をひいているらしい。ともかく、週末Mさん宅に連れて行って試してみることに。そして二日経った日曜日の晩、彼女に電話をしてみた。鳴いてばかりいるから寝られないとこぼしながらも、豹に似ていることからレオちゃんという名前を付けたと言う。

Mさんがレオちゃんに夢中になりだしていることが、手にとるようにわかった。これではもう手放すことはあるまい。Mさんはこの間も会社で表彰されたばかりの仕事一筋のキャリアレディだが、次の日、彼女はなんだか、いつもより、生き生きと見えたのは気のせいか。

一方、ハンガーストライキをして腹をたてていた我が家のパフは、この猫が行ってしまったら、安心して食事をするようになった。

レオがレアに

たぶん五か月くらいの雄だろうから、もう去勢手術もしなければいけないと、検診のため私もつきそって、動物病院に連れて行った。なんと診察をした結果、レオちゃんはレアちゃんになった。雌だったのだ。しかもとしも八か月くらいで、妊娠の可能性もあると言われたが触診の結果、妊娠はしていないだろうと言うことだった。

なにしろ、すぐ避妊手術をしなければいけない。避妊手術はヒューメインソサエティが安いし、上手だということで、すぐ予約を取り、Mさんが一人で連れて行った。

案じられて、その晩、彼女に電話をした。

「きいて、きいて。妊娠してたんだって。私は複雑な思いで、だからあんなに食べていたし、おっぱいがイボみたいに大きくなり始めてたわけだわ。手術して帰って来たレアはもう成熟した女性で、一生懸命傷跡やおっぱいを舐めたりするのを見て、私は彼女のマザーフッドを奪ってしまったのではないかと悩んでいるの。

朝、ヒューメインソサエティに連れて行ってから会社にいる間、もし妊娠していたら、中絶するかどうかを飼い主の私に知らせて来るだろうと思って、もし、妊娠していたら手術はやめて、私のアパートの部屋中、子猫だらけで飼わなければと考えていたのに。私の一存でこんなことをして良かったのかしら?」と興奮やるかたない。

「この間のテレビ番組で見たけど、一匹の雌猫はそのままだと、一生の間に五百九十一匹、産むんですって。その多くが、ちゃんとした家庭で飼われないで、とくにカリフォルニアは気候が良くて野良が増えて、ちゃんとした生涯を送れないから、避妊をするということは猫達のためにいいのよ。危機一髪で、レアちゃんは避妊手術をしてもらって良かったのよ」と私は彼女をなだめた。

「レアは私を越したのよ。妊娠して、しかも中絶までしちゃって」

そう今度はMさんに夫となる男性を紹介しなければ。レアに夢中な彼女は男性に目を向ける時間があるだろうか。でもレオがレアになって妊娠までしていたような予期しないことが起こるのだから、またMさんが夢中になる男性が現れないともかぎらない。

愛する対象がいることは、愛されることよりも人を幸福にする。

後日談:その後まもなく、Mさんは夢中になる男性に出会い、その男性が猫アレルギーであったため、レアちゃんはほかの人にもらわれていった。

竹下弘美

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6 Replies to “愛する対象がいることは、愛されることよりも人を幸福にする”

  1. 救いを求めるものに対して躊躇なく手を差し伸べられる弘子さんの姿には尊敬します。ただ、猫好きな私としては後日談が気になるところで、レアちゃんにとって安住の地が得られた事を願うばかりです。

    1. 榎さま

      レアちゃんはその後もらわれてったところの息子さんにとてもかわいがられました。
      そして、長寿を全うしましたよ。

    2. 榎様

      コメントへの返信、前の記事のところに間違って出してしまいました。

      もう一度ここに書きますね。
      レアちゃんは私の友人宅にもらわれ、そこで、とても息子さんにかわいがられ、長寿を全うしましたから、ご安心くださいね。

  2. 私は、まずは愛されたいです。その愛されパワーもらって人を愛せると思ってしまいます。神さまからこんなに愛されているのに、ですよね。愛するって嬉しいけど苦しい。でも、愛はいっぱいもらっていると日々感じています。欲張り(笑)ですね。

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