人生の中でもっとも暗い時にこそ、輝かしい明日への種が運ばれて来る

毎日のニュ―スは世の終わりが来るのではないかと思うように暗く、また残忍なものばかりだ。そんな時に感動的な話をきいた。タイトルは”Angel at the Fence”という第二次世界大戦のホロコーストの時の話だ。

ナチ収容所で

十一歳になるユダヤ人少年ハーマンが家族とともにナチ収容所に入れられた。尋問された時に母親の所に駆け寄ると無碍(むげ)に兄達の所に戻され、十六歳と言うように母親にささやかれた。そのおかげで、死を免れ、強制労働者として、生き延びる。母親を見たのはその時が最後だった。お腹はいつもすいていた。ある日夢の中で母親が、「あなたにエンジェルを遣わすからね」と言った。

その夢の直後、収容所の網の塀がある所に行ってみると、向こう側に小さな女の子がいて、こちらを見ていた。ドイツ語で話しかけたが、答えないので、ポーランド語で何か食べ物を持っているか尋ねた。カールした髪のその子はポケットからリンゴを出して、塀の向こうから投げてくれた。発覚すれば二人とも殺されるような危険を冒しての毎日だった。それが何か月も続いたが、ハーマン少年の家族はチェコの収容所に移されることになり、お互いに名乗ることもしないで、「明日からはもう来ないで」とだけ少女に告げて別れた。

戦後

ハーマンが殺される直前に戦争が終わり、彼は兄弟力を合わせて、電気技師になり、数年後、イギリスを経て、アメリカに移住した。ニューヨークに住み始めたある日、友人がブラインドデイトに行く時に、彼を誘った。友人を助けるつもりで同行した。向こうの女性も友人への義理でやって来たというが、カールの髪が美しい女性で、ブロンクスの病院で働いているナースだった。すっかり意気投合して同じヨーロッパから移民して来たそのころのユダヤ人ということで、ついに戦時中の触れたくない話題になった。

「戦争中どこにいたの?」強制収容所にいたというと、彼女は「私の家族は収容所の近くの農場に隠れていたのだけれど、私はいつもお腹をすかせている収容所の少年に食べ物を塀越しに投げていたの」

彼女があの時の少女だったのだ。二人の驚きと喜びは大変なものだった。その日のうちにプロポーズした。彼が強制収容所という最悪の状況にいたあの時に、希望を与えてくれたエンジェルが彼女だったのだ。それから五十年以上もの月日が経ったが、今でも二人は仲良く子供や孫達に囲まれてフロリダで生活している、という実話だという。

この話の信憑性-too good to be true

こんなすばらしい出来事があるのだ。それこそ神様が支配しているとしか思えないと感動した。ウェブで調べてみたところ、意外な事実が分かった。

Too good to be true(あまりにも良すぎる話)という表現があるが、まさにそのとおりで誰かが、この話が事実と食い違っていることに気がつき、彼にインタビューした。実際、強制収容所の塀の外からは中にものが投げられるような造りではなかったこと、また少女が住んでいたという農場と彼がいた収容所はかなり離れていて、毎日通う事はできない距離であるとか、いろいろな不審点が出て来た。

インタビューを受けたハーマン氏は、ついに、彼の意識の中では実話だけれど、実在しなかった話だと告白した。事実でないという事がわかったため、発売予定の本は一時キャンセルされたという。彼はインタビューの中で彼の意図は有名になる事でも、お金を得る事でもなく、世の中の人に希望を持ってもらいたい事、人生の中でもっとも暗い時にこそ、輝かしい明日への種が運ばれて来るという事を知ってもらいたかったのだという。

それではフィクションとして出版することもできたのに、なぜ彼は実話だと偽ったのだろうか。その事を夫に話すと、彼は、それほどまでにつらい収容所時代を送っていたから、お腹をすかせて誰かが、塀の向こうからでも食べ物を投げてくれないかと、そこに夢と希望を託して生き延びたのではないか、それが彼の中では実際に起こったかのような現実になってしまったのだろうという。彼の意識の中では事実だったという表現がそれを物語っているという。それほどまでに過酷な少年時代を過ごしたのだろう。

ウェブによれば、本は出版された。その収益を彼はすべてホロコースト関係の慈善団体に寄付すると言っている。その本を読んだ人が今のひどい世の中を生き抜くための力と希望を得ることができれば、実話でなくても彼の意図はかなった事になる。

夜明け直前は真っ暗だという。今の世界は真っ暗だ。ここを抜ければ、夜明けが来るだろう、と信じたい。ハーマン少年がホロコーストを生き延びたのだから。遮断された塀の向こうには希望がある。この話にはAngel at the FenceではなくHope over the Fenceという題をつけたい。

これは前にこの欄で書いた「雲の上には太陽が輝いている」という故日野原重明先生の言葉と同じ意味をもっている。

竹下弘美

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