BLM 全米に広がる人種差別問題から、短編「雨上がり」1

黒人差別反対運動

米国ではこのところ、BLM(ブラックライブスマター)というスローガンで、黒人差別問題が大きく取り上げられています。

これは黒人の問題だけではなく、有色人種、日本人などに対しても時々、見受けられるようです。先日知っている日本人レストランでも「自分の国に帰れ」という張り紙が貼られたと聞きました。

たまたま自分が白人に生まれたからといって、白人至上主義になるということは考えられません。洗脳ということもあるでしょう。

先日書類の整理をしていた際、私が前に書いた短編が出て来ました。

これはアジア人の中での人種問題で有色人種と白人との問題ではありませんが、人間の中に同族しか受け付けないという性(さが)があるのではということについては同じなのではと思います。

今カリフォルニアは10月半ばだというのに、35度もの暑さで、火事の危険があるこのごろです。

雨は冬にならないと降りません。この小説の題は「雨上がり」で、季節的にはこの小説には合わない時期ですが、今日はこれを4回に分けてお送りします。

雨上がり 1.

窓の外は良子の心と同じように小雨だ。リビングルームの大きな窓から、眼下に広がるサンフランシスコ湾も今日は灰色。さっき、夫を送り出してから、何時間経ったのだろう。

いつもだったら、陽の光で時間がわかるが、雨なので、どのくらい経ったのか、皆目、見当がつかない。昨夜、息子のマークが訪ねて来たことが何年も昔だったような気さえする。いっぺんに歳を取ったようだ。

「お父さんとお母さんに話があるから、明日の晩行くよ。」アンサリングマシーンにマークのいつにもなく、深刻な声を聴いた時、良子は来るものが来たと思った。

「27歳だもの、そうじゃない方がおかしいじゃない」と自分をなだめつつ、友人から聞いた息子の噂が本当だったことを直観した。マークは次の晩、遅くやって来た。

いつもだったら、母親の手料理を嬉しがるのに、夕食はすまして来たと言って、良子をがっかりさせた。

「せっかくあなたの好きなおいなりさんを作っておいたのに、じゃ、帰りに持って行ってね。」

夫がアメリカ人でも子供達は日本食が好きだ。息子としては、話の糸口を待っているのか、「コーヒーは?」ときいても、「僕はいらないよ」と答えた。夫のスティーブは息子の心を読んだのだろう。

「おい、マーク、今日はどうしたってんだ。結婚でもするっていうような顔してるぞ」

よくもそんな陽気な気持ちでいられると、良子は夫の人の良さが神経に触る。さっきから、息をひそめるかのように緊張していた、マークの顔が、このスティーブの問いに、パッと明るくなった。

「そうなんだ。さすが、お父さんだ。僕のこと、よくわかる」

「マーク、冗談でしょう?あなたと結婚してくれるような女(ひと)がいるものですか」

「それが、物好きな女(ひと)がいるんだよ」

話の糸口をつかんだマークの顔はほころんだ。早速、待ってましたというばかりにウオレットから写真を出した。髪の毛の長い、いかにも東洋人の代表のような、女性というよりもあどけない少女の顔があった。

「きれいな娘(こ)でしょう?頭も良いし、優しいんだよ。ぜひ、会ってみて。僕たち2年前からつきあってたんだけど、本当に結婚する決意ができてから、お父さん、お母さんに紹介しようと決めてたんだ。そうじゃないとお母さんが反対すると思って」

写真を見るために老眼鏡を取りに行きながら、スティーブが言った。

「お母さんが反対するってどうしてだい?母さんはマークの目を信じてるさ、そうだろう?」

そう問いかけた夫には返事をせずに良子はマークに訊いた。

「お母さんが反対するような娘(こ)なの? あら、この女(ひと)アオザイを着てる。まさか私の嫌いなベトナム人?」

夫譲りのマークの茶色の目が曇った。

「お母さん、僕、お母さんが反対するかもしれないと思ったのは、彼女が、僕より4歳年上だったり、一回離婚した経験者だったりという悪条件があるからと思ったけど、まさか、ベトナム人だからってそんな言い方、ないじゃないか、お母さんはいつも僕にもお姉さんにも、白人、黒人、黄色人種、っていろいろあるけど、みな神様に創られて平等だって小さい時から、ことあるごとに言ってたじゃないか、お母さんはお父さんと結婚して日本じゃ白い目で見られたけど、この国ではそんなことない、アメリカはすばらしいって。」

いつもは陽気で愉快なマークだがかなり、今日は怒っていた。

「私の大嫌いなベトナム人だってことで反対の理由、十分なのに、その上離婚歴のある、4歳も年上の女(ひと)ですって?マーク、あなただまされているのよ。

人が良いから、ほら4年前につきあっていたメアリーも病弱な娘(こ)だったじゃないの、あなたは優しいからいつも何か欠けてる人に惹かれるのよ。

同情と愛情は違うのよね。あなたのために言ってるのよ。一生のことよ。私はあなたにこのごろの若い人たちみたいに経験のための結婚はしてもらいたくないの。ほんとうに神様の前に誓って一生を共にしていける人と結婚して欲しいの」

それ以上、その場にいたたまれず、良子は小走りに寝室に飛び込んだ。その後すぐドアの開く音がして、マークは帰ったようだった。スティーブには「お母さんが同意しなくても、結婚するよ」と言ってすぐ帰ったと言う。

続く・・

竹下弘美

 

  

 


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