BLM 全米に広がる人種差別問題から〜短編「雨上がり」3

雨上がり2までのあらすじ

窓から外の雨景色を見ながら、良子は落ち込んでいた。昨夜、27歳になる息子のマークが、ベトナム人との結婚話を持って来たのだ。たしかに良子は長女の結婚の時にも反対した。でもまさか、マークが4歳も年上の離婚経験者と結婚したいとは。

悶々としているうちに雨上がりの目の前のサンフランシスコ湾に虹がかかった。それを見ているうちに良子は自分も親に反対された結婚をしたのに、幸せだったことを思い、なにしろその娘に会うだけ会ってみる決心をし、夕食に招いたのだ。

雨上がり3

雨が降り続いている。良子の心の中のようだ。今年はよく降る。もう水不足と言って騒ぎはしないだろう。この雨でライブラリーの前のあの真っ赤なかえでは散ってしまっただろうか。

そんなことよりあの娘(こ)のことだ。さっき、夫のスティーブは二人が帰るやいなや、逃げるかのようにベッドルームに寝に行ってしまった。「いったい、あの娘のどこが良いって言うの?」

マークが選んだ娘だから、きっと素晴らしい女性にちがいないと一縷の望みをかけて、今晩、二人を食事に招んだのだ。もともと生理的に嫌いなベトナム人なのに、良子は今日、“理解ある母”を演じた自分がかわいそうにさえなって来た。特別に美人なのでもない、快活な性質でもない、いてもいなくても、わからないような娘(こ)。お化粧さえしていないとは。

いつもマニキュアまでしている良子には考えられないことだった。良子は人が集まる所では、いつも中心人物だった。その美貌で、またその話術で。普通、男の子は母親に似たお嫁さんを選ぶと聞いていたが。「マークは、私のこと、嫌いだったのかしら」

ディナーテーブルの上には、食べ終わったお皿がそのままになっている。いつもマークが来る時には、お皿類をさっさとキッチンに運んで洗ってくれていたのに。

「あの子ときたら、あの娘(こ)に気兼ねばかりしてベトナム料理がいかにおいしいかなんてことばかり話して、挙句の果ては明日二人とも仕事で早いからって、たいして話もせずに帰ってしまって」

 

ダイニングルームの窓を雨が激しく打つ。この音からして暗闇でわからないが、雹かもしれない。いつも静かに見える眼下のサンフランシスコ湾の灯が、今日は揺れている。良子は、一向に腰を上げる気がしなかった。

猫のジョナが、良子の気持ちを察したかのように、膝に飛び乗って来た。「そうよ、あなただけよ、私のこと、わかってくれるのは」ゴロゴロ喉をならし出したジョナに、つぶやいた。

しばらくして、少し気持ちが、落ち着いて来た。猫は、プレッシャーを和らげるということを読んだが、ほんとうだ。

「なにもかも明日にしよう」きれい好きな良子が汚いお皿をそのままにして寝るということは、よほどのことだった。ダイニングルームの、電気を消そうとジョナを抱いたまま、立ち上がった。

スイッチのすぐそばに、さっき、マークが持って来た蘭の鉢植えがあった。昔から、女の子のように優しく気がつく性質のマークは、今日も良子が集めている蘭の、まだ彼女が持っていなかった色の胡蝶蘭を持って来くれていた。

どこで、買ったのかとラベルを見ようと近づくと封筒が置かれていた。「お母さんへ」と日本語で書かれているではないか。

小さい時から、どうしても聞いてもらいたい時には日本語を使うというのが、マークの戦術だった。電気を消すのをやめて、封筒を開いた。中は、びっしり英語で三枚も書かれていた。

「ママ、今日はメイをディナーに呼んでくれてありがとう。この間、メイの写真を見せた時のママの取り乱し方に、僕はびっくりしたけど、それなのに、こんなに速くママが、メイに近づこうとしてくれる日が来るとは思いもしなったので、嬉しくってたまらない。

きっとママはパッと目立つ存在ではないメイのどこが良いのか、今日はわからなくて戸惑っているに違いないと思う。図星だろう?

・・・・ 続く

竹下 弘美


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