BLM 全米に広がる人種差別問題から、短編「雨上がり」4

いよいよ最終編です。ただみなさんにメイの年齢のことをお断わりしなければなりません。これは私が20年前に書いたものです。

文中でベトナム戦争の最中に彼女の目の前で両親が殺されたということが出てきますが、1970年にメイが4歳としても彼女は現在は54歳ということになります。

ですから、20年前には34歳ということになるので、そのつもりで20年前の話としてお読みくださいますように。

雨上がり4

…メイと僕は4年間サンデースクールを一緒に教えていたということは、この間、お父さんに言っておいたから聞いたかもしれないね。その間の彼女の地道な働きを見たら、誰だってお嫁さんにしたくなると思うよ。

僕は、ハイスクールの時から、もてたからへ、へ・・・アメリカ人の女の子とは、いっぱいつきあって来たことは、ママ、よく知ってるよね。

でもその中の誰一人として、これからの人生を一緒に歩みたいと思わされた子はいなかったんだ。きっと、僕はママに小さい時から、『人間は、中身よ、外観じゃないのよ』って言いきかされ続けて来たからかもしれない。

たしかに、僕がプロポーズしたら、メイはあわてたよ。自分は傷もので、その資格はないって、もうずっと身体障碍者の看護婦として、一生過ごすつもりだったって。

メイは4歳の時、べトナム戦争の最中、目の前で両親が殺された。周りにいた従兄や、友人達は腕を亡くし、足を亡くした。

幸いにも怪我をしなかったメイは、その時、看護婦になる決意をしたんだって。その後、身寄りがなかったため遠い親戚にあたる家族から呼び寄せられてアメリカに来たものの、そこの息子と強制的に結婚させられたんだって。そんなバックグラウンドがあるから、本当に人の痛みのわかる女性なんだ。

僕は蘭やバラのように豪華なママも好きだ。でも野の花のようなメイも好きだ。前にママと一緒に教会で聞いたメッセージ、おぼえてる?バラにはバラの美しさがあるし、コスモスにはコスモスの美しさがあるって話。

コスモスがバラをうらやましがる必要はなく、それぞれが、神様に与えられた自分の花を咲かせばいいっていう話だったよね。

豪華な蘭やバラみたいなママには、野の花のメイを受け入れることは、難しいかもしれない。でもお互いの生き方を認めたら、共生できるんだよ、そして、きっとママはそうしてくれると僕は信じる。

長い目で見てくれたら、ママにもメイの良さ、美しさが、わかってくると確信する。ママ、ありがとう」

窓ガラスを叩いていた雨はやんだようだ。ジョナの背中に良子の涙が落ち、ジョナはそこを舐め出した。良子はマークに恥ずかしいと思った。

我が子ながら、あっぱれだと思った、ナイーブすぎて、年上の女性にだまされたのではと思った自分が情けなかった。夫のスティーブの言う通り、マークは立派な大人だった。

少し前に、30代の日本からの駐在員の奥さんに、良子はアメリカ人との自分の結婚が反対されたものだったことを話しながら「でも私も自分の子が、ベトナム人や有色人種と結婚すると言ったら、やはり反対するわ」と言ったことがある。

「そうよね」という返事を期待していたところ、「あら、そうですか、私達の年代には、もうそういう差別の感情ってないですよ」と言われてびっくりしたことがある。

いったい自分はどうしてベトナム人が嫌いなのだろう。ただ一回知り合ったベトナム人が自分にとって厭な性格だったからにすぎないではないか。それは人種の問題ではないはずだ。

「『老いては子に従え』か、よし、メイを好きになってみせる。いや、少なくとも受け入れよう」と良子は決心した。

「マダム、コーヒーはいかが?」

夫、スティーブの声で目が覚めた。昨夜は手紙を読んだ後、そのままソファで寝てしまったらしい。

「ねえ、マークの結婚式の会場、あの子達の教会じゃ小さすぐるわよね。どこがいいかしら?」

「マダム、マークの結婚に反対とお見受けしておりましたが、如何なさいましたかな?ソファで良い夢でもご覧になられたのですか?」

「もマダム呼ばわりとその口調はやめてよ」

「なんだ、僕がこうして心痛めたる妻のためにコーヒーを入れたことなんて今までの結婚30年で今日が初めてだっていうのに。・・・もうしないからな」

「ちょっと待ってよ、私嬉しいのよ、私達の育て方、間違ってなかった。マークはいい子よ」

「そりゃそうさ、俺の息子だもの、何の風の吹き回しか知らないけれど、お前が二人のことを認めたのは良かったよ。

でも結婚のことにしろ、結婚式のことにしろ、二人に任せるんだよ。二人とも、もうとっくに巣立った大人なんだから」

サンフランシスコ湾の水面(みずも)が、ちょうどフリーモントの方から顔を出した朝日に赤く染まっている。

長かった今年の雨期は、ようやく、これで終わったのではないだろうか。「雨降って地固まるか」スティーブがつぶやいた。すっかり雨は上がった。

良子は、夫が入れてくれたコーヒーに口をつけた。うれし涙のせいか、少ししょっぱかった。(完)

竹下 弘美


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“BLM 全米に広がる人種差別問題から、短編「雨上がり」4” への8件の返信

  1. 「雨上がり」毎回楽しみに読ませて頂きました。最終回で良子がメイを受け入れてほっとしました。私自身は何人だから嫌いということはないと思います。何人であれ、素敵な人は素敵だし尊敬する人もいます。でも嫁姑問題は万国共通の永遠のテーマと言われますね。自分とは違う異質のものを受け入れ、愛する事を可能にしてくれるのは、やはり信仰による祈りしかないのではと、今のアメリカの状況とも重ねあわせて思わされています。

  2. 私達も一人嫌な人に出会うとその人種全体を嫌う傾向はありますね!陥りやすい弱点です。

    以前韓国人の人で私の話に一々突っかかってくる人があり、何かあると不思議に思っていたら、多分排日感情を小さいときに擦り込まれたみたい。ある日彼女の経営している店に知らずに行って、驚いたけど、普通に話して買い物して帰ってきたら、その後に会って話したらとても感じよくなっていたのよ。
    聖書にあるように相手がどうあっても、善意を尽くすといつかその人が気がついて、心開くとね。

    人種のことを扱うのはとても難しいけど、日常茶飯事の出来事で描いてくださったので、皆さん特に外国に住む人たちには似たような経験されているので素直に受け止められたと思います。

    又是非違うテーマで書いてください。

    1. Mariko さま

      そうですよね。偏見や差別って親や周りから洗脳されることが多いです。
      でも日本にいる人たちよりもアメリカという人種のるつぼにいる私達の方が少し視野が広いかもしれません。

      その人種にも悪い人はいるし、人種ではなくその個人を見るようにしたいものです。

    1. 由紀さん

      お読みいただいてありがとうございました。
      由紀さんも息子さんたちに話しのわかるお母上でしょうね。

  3. 良子さんは偉い。いくら息子が立派な事を言っても私はもう少し
    懐疑的。古いねー。人種からの批判ではありませんが、もう少し
    釣り合う相手だったら良いのにと、息子の幸せを祈る老婆心から
    の意見です。でも結局子供は子供なりに納得の行く人生を選ぶのでしょう。親は一生懸命子供を育てるけど、子供の家庭は親のものでは
    ありませんよね。我が家の3人の子供の家庭を見てつくづくそう思います。一歩も踏み込めませんが踏み込む必要もないです。彼らの方が
    全うな考えを持っています。彼らの子供たち(私からは孫たち)が
    もし異人種と結婚しても彼らは良子さんの夫の様にするでしょう。
    雨上がり  有難うございました。

    1. Yoshiko さんは良子さんと同じように偉い!!

      親の役目は責任を撮ることのできる人間に育てることでしょうね。
      見る目を持った。

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