今年もピンク色の裸の淑女(ホンアマリリス)が咲く季節になりました。

タイムスリップ

この花はいつも急に視界に入って来て、ここ、南カリフォルニアでは、「あ、夏がやって来たのだ」と感じさせる花です。

そしてまた夏を思い出させるだけではなく、その度に私をタイムスリップさせるのです。

それは結婚を反対されて日本社会には住めずに義姉夫婦を頼って渡米して来た直後の事でした。

渡米時、保証人になってくれていた義姉夫婦の家から独立して、初めてサンディエゴの安アパートの二階に住み始めた時の事です。

部屋はstudio(一間)でベッドは昼間は畳んで壁にくっつくようになっていました。貧民街で、隣の住居から大声が聞こえたりしましたが、 私が白雪姫の鏡と呼んでいた古めかしい鏡台も付いていました。

段ボールに日本からの和紙を貼って家具にしたり、野原から花を摘んで来て生けたりして、貧しいながら楽しんでいました。

大家さん

 

階下の大家さんのミセス・マレックが「電話ですよ」と部屋から出て来て私を二階まで呼びに来ました。今からは考えられない事です。

私達の部屋には電話が無かったのです。もちろん、携帯電話などというものが出て来るなどという事は想像もしなかった、昔々のお話です。

階下の彼女の部屋に初めて入りました。入り口に大きな額縁入りの正装した姿の若い女性の写真が掛かっていました。電話が済んでその写真に見入っている私に、彼女が言いました。

「あれは私なのよ。アメリカに移住して来る直前にポーランドで撮った写真」

もしかしたら、彼女はユダヤ人だったかもしれません。写真の中には、でっぷりしたおばあさんになったミセス・マレックからは考えられない凛とした若い女性が佇んでいました。

「人生はあっという間よ」と彼女。

そして私の髪の毛を見て、

「あなたの毛は黒すぎるけど、染めているのでしょう?その黒の色は自然の色じゃないわ、濃すぎますもの」

と言いました。私は日本人の毛はカラスの濡れ羽色と言ってすごく黒いのだと言っても信じませんでした。

ピンクの花

窓の外を見ると、この花が咲いていたのです。ユリでもないし、日本では見た事がない花でした。

「あの花は何ですか?葉っぱが無いけれど」と尋ねた私に、ミセス・マレックは「あれはね、naked lady(裸の淑女)よ」と、教えてくれたのです。「葉っぱが無いけど、ピンクで気品があるから」

調べたところ、これはいわゆるアマリリスと違ってホンアマリリスというのが正式の名前で、南アフリカ原産のものだそうです。それで、暖かい南カリフォルニアで見る事ができるのだとわかりました。

花が咲く前には葉があるのですが、花が咲くころには葉が無くなるのだそうです。そしてふつうのアマリリスはいろいろな色がありますが、これはピンクだけしかありません。

あれから何年が経ったでしょうか。私のカラスの濡れ羽色の漆黒の髪は霜降りに。「人生はあっという間よ」と言っていたミセス・マレックの年に私がなってしまいました。

でもあるお年寄りが言っていました。これからは、今までに溜まった多くの良い思い出を振り返る事ができる時だと。

竹下弘美


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“今年もピンク色の裸の淑女(ホンアマリリス)が咲く季節になりました。” への4件の返信

  1. 自動車の中からこの花を眺めながら今海の見えるコテッジに来ています^_^
    スーと背筋を伸ばして美しく咲いている姿は淑女の名にふさわしいですね。

  2. このブログを開いたら一番に目に飛び込んできた花、思わず「わ、可憐な百合」と思ってしまいました。タイトルのホンアマリリスと言うのを読んでいたにも拘わらずにです。優しそうなお花ですね。
     私は学生の時は毎月床屋さんに行っていました。その理容師さんからいつも、綺麗な髪ね、綺麗な眉ね、と褒められていました。
    人生はあっという間に過ぎ、今では白髪と🐛眉になってしまいました。今までに溜まった多くの良い思い出を振り返ってみることにしましょう。

  3. ホンアマリリスは神様の前にいる私達のようですね。花が開く時には葉は切り落とされ、痛みも癒され、かつての様々な思い出も愛しく抱きしめられる。
    「彼らの涙もすっかりぬぐい取ってくださるのです」(黙示録7:17b)
    天の御国のようです。

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