宝石のひとりごと

美人薄命

人生の先が見えてきてもう物欲がない。こうなったらもうお終いかもしれない。身辺整理をしている。12回も引っ越したから、物が少なくなっているかというとまだいらない物がたくさんある。次の引っ越しのためにではなく美人薄命というからその日のために備えておく整理だ。

と言っても誰も私のことを美人とは思わないから、こんな冗談が言えるのだろう。急に亡くなったら、こんなガラクタを残されて、後の人が困るだろう、と思ってのことだ。いつも整理し続けているのに、なかなか物は減らない。

物をふやしたくないから、子供達にプレゼントはいらないと言ってある。かれらには時間を共有してもらうことだけが、一番のプレゼントだ。あるクリスマスにはそれを要求して、夫にも子供達にもサンフランシスコに一日つきあってもらった。

物を整理してわかることは、我が家には子供に残すような価値のあるものは無いということだ。ただ、高価ではないが、センチメンタルな思い出のある装飾品を、少しもっていることに気づいた。

母の指輪

母はよく指輪を買っていた。知人の宝石やさんが家に出入りしていて、いつも母に付きまとっていた幼い私は、母が宝石を買うのを見ていた。母の世代は戦争を経験しているから宝石が財産だったのだろう。けれど、若い世代にも宝石好きの人がいるところを見ると、世代の問題ではないのかもしれない。

母とは反対に私も姉もいっこうに宝石には興味がなく、母が生き形見として、私達にくれようとする指輪類を、あまりありがたがらなかったので、気の毒だ。けれど母があまりにもくれたがるので、女学校を卒業するときに羽振りが良かった叔父が買ってくれたというルビーの指輪、これをもらった。

母はよくその時のことを話した。まだ若かった母はルビーの赤さに惹かれたのだという。その叔父はダイアモンドではなくルビーを選んだ母に、何回もダイヤでなくてよいのか、念を押したという。大人になってから考えるとダイヤにしておけばよかったのに、とその指輪を見るたびに母は残念がっていた。

戦争中の貴金属供出のため、周りの金は無くなっていたので、戦後、造り直してもらったという。これは母の歴史があるので、もらっておいた。

婚約指輪

次は婚約式の時に夫の母からもらった婚約指輪。これは義母が婚約した時に彼女の義父、つまり、私にとっては義父の父が、イギリスの宝石店に特注した物でダイヤ自体は0.5キャラットだが、デザインが珍しい。

韓国の国花であるむくげの花びらで囲まれている。代々、長男の嫁に受け継がれていくようにということだ。もう百年近く経っているアンティックだ。また婚約式の時に手渡されたものの中の一つにジェイドのネックレスがある。まだ夫の家族が韓国にいたころだ。

一家でソウルのデパートに出かけた日のこと、あるショーウインドーの前で、五歳だった夫はその中のジェイドのネックレスが欲しいと言ってその前を動かなったのだそうだ。義母は「それでは未来のあなたのお嫁さんに買っておきましょう」と買っておいてくれたのが、この代物だ。普通のジェイドは生理的にその艶が嫌いなのだが、これは艶なしで、色も気に入っている。

何よりも、その時から、夫が私のために選んでいてくれたということが、嬉しい。そのころは玉が糸でつながれていたので、あまりにも古く、ついにこの間、つないである糸が切れてばらばらになってしまった。せめて夫の愛がかろうじてつながっていますようにと願う。

友人達の場合

日本に行った時、友人からサファイヤのネックレスと指輪のセットをもらった。彼女は裕福な家庭出身だが、毎週ホームレス給食に携わっている。

「これをもらってくださる?こんなのを身につけていたら、ホームレスの人達とかかわっていられないから」と言う彼女の優しさと使命に心打たれたものだった。

一番最近手に入れたハートのペンダントのことはあまりにも悲しい。「ちょっと差し上げたいものがあるから」とお別れに行った私にそう言って部屋の奥に入っていった友人。

彼女は翌日、日本に発つことになっていた。子供さん二人をおいて、片道切符だけを手に。中学生の子供さん一人を不慮の事故で失い、それが原因でご主人から離縁された方だった。「これを見て私のことを思い出してね」この金色のハートのペンダントを見る度に彼女の幸を祈らざるを得ない。

このような思い出の物はなく失くしたくないが、いずれにせよ死ぬ時にはもっていかれない。またこの世の物はすたれる。津波がきたら、地震がきたらどうだ。命にまさるものはないではないか。無くならない宝石類よりも愛だけを残して去りたい。

富弘さんの詩

結婚指輪はいらないといった
朝顔を洗う時、
私の顔を傷つけないように
体を持ち上げる時
私が痛くないように、
結婚指輪はいらないといった

今レースのカーテンをつきぬけてくる
朝陽の中で、
私の許に来たあなたが、
洗面器から冷たい水をすくっている
その十本の指先から
金よりも銀よりも
美しい雫が落ちている
(星野富弘詩集より)

竹下弘美

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