ほんの少しの時間を費やす事が人に幸せをもたらす―家宝の10セント玉

口座から幸せのメモリーを引き出す

前にこの欄である老婦人が、私達が生きていくという事は、いつもメモリーと言う口座に毎日入金し続ける事であり、老人になった時に今まで貯め込んだその口座から幸せのメモリーを引き出すと、とても楽しいと語っていたと書きました。(美しく年を重ねるためのサバイバルキット2019年2月参照)

この頃、いろいろ昔の事が思い出されるのは、私が老いた証拠でしょうか。メモリー口座から引き出して懐かしんでいます。

新年会で思い出した事

先日ある新年会に招かれました。多くの方のご挨拶や紹介が終わり、いよいよ待ちに待った昼食でした。そしてこの写真のようにお食事が運ばれてきた時、突然、メモリー口座からアメリカに来たばかりの頃の事が引き出されたのです。

この、お皿にカバーをかけて運ぶという光景に出会ったからです。この光景は、日本では見られないですね。アメリカでは、サラダとデザート以外のメインディッシュは一皿盛りなので、冷めないようにカバーが被せてあるのです。

これを見た時、アメリカに来て私が、初めて働いたホテルの宴会場でウエイトレスをした時の事を急に思い出したのです。

サンディエゴでスポンサーになってくれた義姉夫婦を頼って渡米したものの、何もわからない私達でした。義姉達の勧めで何しろ、英語を体得するためにアルバイトをしなさいと、まず英語の学校に行きながら、夫はレストランの門を叩いてホテルのバスボーイ(レストランでウエイトレスのしない食器の後片付けをする人)という仕事に就きました。私は同じホテルで英語をあまり必要としない宴会場でのウエイトレスをしました。その時の光景がこれだったのです。

一つ一つのカバーをお皿から取ってサーブしました。それ以外の私の仕事はお客さまに、ステーキの焼き具合を訊く事、コーヒーかお茶かを訊くくらいで、後はお持ち帰りのドギーバッグ(犬用の袋)が欲しいと言われたら、ブラウンバッグを持っていく事くらいでした。

犬用ではなく人間が食べ残しを持って帰るだけなのですが、こんな表現もそこで習いました。

私の仕事は宴会がある時だけですから毎日というわけではありませんでしたが、夫はコーヒーショップで毎晩学校の後、バスボーイとして働いていました。

その日は私の仕事はなく、夫の仕事が終わる9時にホテルのコーヒーショップに迎えに行ったところ、夫は疲れた足をひきづりながらもなんだか嬉しそうに車に入って来ました。

とても嬉しい事があったというのです。彼の話はこうでした。

老夫婦からもらった10セント玉

毎日、コーヒーショップに3時頃、コーヒーを飲みに来る老夫婦がいたそうです。その日も、いつものようにやってきて、コーヒーだけを注文し、しばらくしてから、お代わりのためにウエイトレスに合図をしたそうです。

アメリカではコーヒーは何回でもお代わりがもらえます。ところがウエイトレスは、コーヒーだけのお客に振り向きもしなかったのだそうです。それを見た夫は、コーヒーポットをもってお代わりを注(つ)ぎに行ったそうです。

注ぎ終わった時、老人は夫の手をぎゅっと握り、なにやら恥ずかしそうに夫の手に掴ませました。それは10セント玉だったのです。あと一日分のコーヒーが飲める金額でした。(驚くなかれ、その頃、コーヒー一杯は10セントでした)その老人はどんなにか嬉しかったのでしょう。夫に感謝の気持ちのチップとして、あと一日分のコーヒーの代金を手渡してくれたのです。

「愛とは時間をかける事」これは私がいつも言っている事ですが、ほんの少し、夫が割いた時間に老人はこんなにも感激してくれたのでした。

この10セント玉は家宝になっています。そして今、私達夫婦がこの老夫婦のような人生の黄昏時を迎えています。まだウエイトレスに無視された経験はありませんが。

竹下弘美


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2 Replies to “ほんの少しの時間を費やす事が人に幸せをもたらす―家宝の10セント玉”

  1. 弘美さん
     「愛とは時間を掛けること」・・本当にそうですね。
    料理にしても一手間、二手間、少しの時間をかけてクックしたものは愛が込められていて美味しいですものね。
     それにしてもさすがは李先生、ウエイトレスが見捨てた老夫婦にコーヒーをサーブされたなんて。その10セント玉を宝物として取っていらっしゃる李ご夫妻もさすが!

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