指の傷には包帯をするけれど、心の傷の包帯はハグすること 

はまる

言葉に好き嫌いのある私にとって、大嫌いな言葉のひとつに「はまる」がある。ところが、一時この言葉にピッタリのことをやっていた。まだ働いていたころのことだ。韓国ドラマのDVDを次々と貸してくれる友人がいた。仕事から帰ると手抜き料理をして、片付けもそこそこにテレビの画面に向かう毎晩だった。

眠くなるまで続きを見てしまうのだが、翌朝起きて、私の人生、これでいいのか、残りの人生の多くの時間を韓国ドラマ鑑賞で終えてしまうのではないだろうか、と不安にさえなった。そのくらい時間を費やしていたのだ。友人達には、貸してくれるのを少し待ってくれるように頼んだ次第だ。

友人達は楽しいものはシェアしたいと思って貸してくれることはわかっているのだが、この状態では家事も止まってしまう。

「はまる」って怖い。出口がないのだから。話してみると私と同じように、はまっている人が大勢いた。しかもみな、見ていて号泣するという。その人達と話していると、目の色が違ってくるほど傾倒しているのが、つまり、はまっているのがうかがえた。そしてみな、自分のもっているDVDを貸してくれたがっていた。

以前は韓国ドラマは、嘘をついたり、記憶喪失になったりするようなことばかりだからと嫌っていた夫まで、「チャングム」を見て感心してから、一緒に見るようになった。その前にインターネットでだいたいの筋を読んで、そのようなことが出てこない物語だったら、借りることにした。

なぜ韓国ドラマに惹かれるのだろう。三十代の女性に言われた。
「あれは四十代以降の人が見るものですよ」
びっくりしたが、わかるような気がした。私達の年代にぴったりくる清純さ、ラブシーンもどぎつくなくしっくりいくのだろう。かえって今の日本の若人達にはものたりないのかもしれない。また、音楽とファッション、映像の美しさ、景色の撮り方がすばらしく、特にやはり、センセーションをおこした「冬のソナタ」は際立っていたと思う。もちろん、面食いの私だから、美男美女の主演はとても心地よいし、ピアノの発表会で「冬のソナタ」のテーマ曲を弾いたくらい、音楽も大好きだった。

光る言葉

一番惹かれたのは中に時々出てきた光る言葉だ。韓国語がわかないから日本語字幕だったり、吹替えの言葉だったりだが、DVDを戻して、書きとっておいた。なんといっても一番光る言葉や考えさせる言葉が出てきたのは、「冬のソナタ」だ。コンピュータに入れておいたのに、そのファイルがみつからないのが残念だが、「人を好きになるのには理由はいらない」が心に残っている。

ところがそのあと見た「パリの恋人」というのでは、「好きになるには理由はいらない、というけれど、好きになったら、あなたのすべてが理由になった。あなたの良い所を百以上もあげることができる」

殺し文句だ。

指の傷には包帯をするけれど、心の傷の包帯はハグすること
トラック一杯のダイヤモンドより、貴女の笑顔の方がすばらしい
恋をするということは、心がその人でみたされること

愛の言葉だけではなく、次のような言葉もあった。

敗北を受け入れることを習うべき
人生はアドリブ、思い通りにはいかない
今この山をこえなければ、次の山はもっときびしくなる

等々。

今日の日本では失われている家族の結びつきの強さ、家族の団らんが多く見られることも特徴だろう。子供が悪い事をすると、追いかけて箒で叩く。親子の会話が多い。日本と似ている生活様式の中でそのようなノスタルジックなものが底辺に流れて、私達は自然に癒されていくのではないだろうか。それが「はまる」原因かもしれない。見ている間にドラマの中で食べている、トッポッキやジャージャー麵が食べたくなる。

かなり前のことになる。教会の七十五歳の方をお訪ねしたところ、部屋中、ヨン様グッズで溢れていた。カレンダーもヨン様。部屋のあらゆる所に彼の顔があった。コンピュータの中まで、韓国ドラマの情報で埋め尽くされていた。韓国ドラマは彼女に夢を与えていた。彼女だけでなく、そのような日本人がいっぱいいるのだ。

これは韓国人の夫と日本人の私が結婚したころには考えられないことだった。私の親の時代には、韓国人と日本人の確執は大変なものだった。アメリカに留学して気持ちのおおらかな夫の父親さえ、日本人が韓国人にした拷問を目の当たりにしていたから、生きていたら、私達の結婚は実現しなかったかもしれないとも言われた。

初めて韓国に旅行した時、夫の親戚が私達を歓迎してソウル見物に連れて行ってくれた。どの名所に行っても日本人がどんなにむごいことをしたかがうかがえた。親戚の人達は私が日本人だということを忘れて説明をしてくれたのだと思うが、気がつくと、日本人は私と、日本人の血が半分の私達の子供だけで、気がひけた。

韓国ドラマは日本と韓国のわだかまりを民間レベルで溶かすという大きな働きをしてくれたわけだ。となると韓流に「はまる」のも悪くないかもしれない。

そのころ、娘がボーイフレンドを連れて来ると言い、韓国人だと言った。そこで、韓国ドラマの俳優のようなハンサムな青年を期待していた。

現実はドラマとは違っていた。

竹下弘美

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