マーチ・オブ・ペンギン(皇帝ペンギン)-子供の為に耐える寒さ暑さ  

息子は映画製作がNYU(ニューヨーク大学)でのメジャーで、卒業映画製作のため大変な思いをしたことは何回かこのウエブで書いた。特にそのため、ニューヨークからクルー(製作要員)十五名を連れて我が家に十日間滞在した時の大変さをようやく友人達の協力を得て乗り切ることが出来たことは、私の子育て人生の中で一番の思い出となっている。

その後、ニューヨークでの撮影は難航したが、映画撮影が終わった段階で、息子はマンハッタンのコマーシャルやテレビ映画製作をしている会社に就職。週末に編集や音楽付けをして、その映画「Shift」がようやく完成した。

ワールドプレミア

初めてロサンゼルスでの映画祭、「Dance with Film」に出品した。この映画祭の趣旨を見ると、「自主映画製作者への救済の道、ハリウッド誕生でないためにその機会が与えられないフィルムメーカーのために、人種、宗教、性別を超えて」とある。

作品が受け付けられただけでも栄誉なのだという。息子の応募したショートフィルム部門では二十四本の作品が競い合うということだった。その後も地で行われる映画祭に応募するというが、気にしていなかったところ、この映画の出資者の一人である甥が日本からわざわざ見に来てくれるというではないか。それでは親の私達も初めての映画祭だから応援に行こうということになった。

ロサンゼルスの友人達にも声をかけた。息子が小さい時に遊んでもらった人達だ。その友人達に電話をすると、「ワールドプレミア(世界初公開)だから何を着て行ったらいいのか」と大騒ぎをしているということで、こちらが驚かされた。

息子の前宣伝「ワールドプレミア、切符ご購入は早めに、売り切れご注意」が功を奏し過ぎたのか。赤い絨毯があるわけではないし、その日に授賞式があるわけではないので、ドレスアップする必要はないことを言ってエクサイトしていた彼らを宥めた。

前日の土曜日、私達の住んでいたサンフランシスコ郊外からロサンゼルスまでの八時間あまりは、甥と私達夫婦三人でドライブ。映画祭は金曜日から六日間続いていて、長編、短編、ドキュメンタリー部門の映画が連日上映されていた。

息子の映画上映は日曜日の午後五時からだった。二時間セッションの中で五本の映画を観ることになる。息子の映画は三十六分、他の作品は十分とか五分の映画だという。

映画祭当日

当日は折りからの熱波でひどい暑さ、しかも湿度も高く、不愉快な日であった。不慣れなビバリーヒルズでの映画館に遅れて行っては大変と、かなり早く出た。三時過ぎにはフェアファックスのファーマーズマーケット辺りをぐるぐると駐車場探しをしていた。近くの駐車場はすべて一杯で、ようやく立体駐車場を見つけて停め、まだ早いが会場の映画館に向かった。

すごい暑さ。会場まで近いと思いきや、かなりあった。アスファルトの照り返しで、灼熱地獄。あまりの暑さに時々、通りがかりのお店に入って涼んだが、あまり涼しくない。今までの生涯でこんな暑さは初めてだ。私達三人は無言で映画館に向かって行進した。行けども行けども辿り着かない。ちょうど三時過ぎ。太陽はじりじりと頭上を焼く。息子のためとはいえ、この苦しさは?

「マーチ・オブ・ペンギン」の映画

暑さで朦朧としながら会場に向かっていた私の頭に、前に見たDVD「マーチ・オブ・ペンギン(皇帝ペンギン)」が浮かんだ。話題となったフランスで製作されたドキュメンタリー映画だ。あの中では零下四十度の氷の上をペンギン達は故郷を離れ、相手を求めて行進する。長い長い行進だ。

つまり子孫を永続させるための行進だ。そして、めでたく相手を見つけ、卵を産んだ段階で、雄と雌がその卵を孵化させるのに、並大抵ではない苦労をする。

あれは寒さの中での行進で、暑さとはまったく反対だが、子供のために苦労するという点では共通ではないか。動物のペンギンがあんな苦労をしているのだから、人間の我々がこのくらいの苦労をするのはあたりまえかもしれない。

入り口に着くと、なるほど、切符は完売だった。多くの友人が来てくれていて、映画が始まった。プログラム通り、一番最初が彼の映画だった。後で聞くと、夫は多くのシーンがカットされなければならなかった裏事情などを知っていたから、上映最中、祈っていたそうだ。

私達の家を拠点にあの十日間を費やしてサンフランシスコで撮影したシーンは、たった十分たらずのものであった。だいたい筋は知っていたが、かなり、感動的な映画で、思ったよりも良い出来だった。次々とほかの四本も上映され、最後の映画もかなり良く出来ていた。六時四十五分にそのセッションでの五本の映画が終わり、監督は舞台に上がるように言われた。

司会者からのインタビューや、客席からの質問に答えるためだ。前日NYから飛んで来ていた息子も壇上に。並んだ順にインタビューされた。息子の場合、俳優をどのように選んだかなども聞かれたが、「誰に感謝しますか?」と聞かれ、彼は答えた。「サポートしてくれた方々、特に両親に感謝します」と。

この言葉であの灼熱の暑さの中の行進も、昨年の十名を食べさせた時の苦労も飛んで行ってしまったから不思議だ。「両親はどこにいますか?」私達は手を挙げたが、かなり離れて座っていたから、皆の目からは離婚した夫婦に見えたことだろう。

そして翌週、彼の映画がベストピクチャーに選ばれたという知らせが届いた。

あれから何年たっただろう。今広告業界でディレクターをしている息子は今年、広告業界でのアカデミー賞といわれているAddy Award を受賞した。 
マーチ・オブ・ペンギンの映画を思い出し、親である幸せを再び味わった。 


 
竹下弘美

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3 Replies to “マーチ・オブ・ペンギン(皇帝ペンギン)-子供の為に耐える寒さ暑さ  ”

  1. ジョナサン君、おめでとうございます。

    たくさんの愛に育てられた果実として、多くの仲間やチャンスやアワードが実っているように思います。

    弘美さんご夫妻の細やかな愛情に感服いたします。

  2. 弘美さん
     息子さんのAddy Award受賞おめでとうございます。
    さすがお二人の息子さん、素晴らしいですね。それでどんな苦労も吹き飛びますよね。
    それにしても、お二人が離れて座っていらっしゃったなんて、本当に離婚したご両親と思われたでしょう。あんなに仲がおよろしいのに。
    Jonathan君は、そこはかとなく先生似でそこはかとなく貴女似でいらっしゃいますね。
     これからのご活躍を期待しています。映画も見てみたい!
         微人

  3. ゆきさん

    コメントありがとうございました。きっとユキさんの今があるのもいろいろな方との出会いやおっしゃっているように愛に育てられた果実なのでしょうね。

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