住めば都

南カリフォルニアでの住居

南加にいた時の家はプールとコンクリートの裏庭で、前庭に少し芝生がある程度だった。庭師が芝刈りをしてくれて、プールはプール屋さんにまかせていた。

時々隣の猫がコンクリートの上に糞をしていて、猫の風上にもおけないとそれをシャベルでとって隣の庭に投げることくらいしか、やることがなかった。猫の身になれば、掘りたくてもまた土をかけたくても、それがないからだと言うかもしれないが、猫党の私としては、自宅でちゃんと掘ってやってほしいと思う。

日本での我が家の猫なんぞは、雪の時もちゃんと雪を掘って用をたし、雪がとけたら、それがこちこちの冷凍状態で姿を現し、これこそコフンだとembarrass(はずかしがって)いたくらいなのに。

北加の家

20年以上も前に北カリフォルニアに引っ越した時は、野趣があってとても良いと思った。前庭がほとんどなくて、芝生もない。裏庭は石畳の間に草ぼうぼう。壊れている塀から鹿が出入りして、レモンの木などは届く限りの高さまで葉を食べてしまう。

最初は知らずにバラを植えたら、蕾がふくらんでくると、チョンと食べてしまうことに気づいた。ストックも、ブーゲンビリアもすべて花の部分が一夜にして首から無くなる。鹿と目が合うと、しばらくじっと動かずにこちらの目を見てから、逃げていく。

決して、なつかないが、朝起きるとレモンの木の下がお気に入りで、そこに座っていることもあり、春には白い斑点のある小鹿を母鹿が連れて来る。角のある父親は単身赴任か、どこかにお出かけでめったに来ない。

風もないのに、なぜ椿の木が揺れているのかと思うと、鹿が蕾を食べているという具合。このように鹿に花は食べられてしまうので、雑草を抜いて花畑にする夢は消えた。
それでも庭師に一回きれいにしてもらおうと売り込みに来た人に頼んでみたが、あまりにも仕事をしないので、あきれた。しまいには「私にそののこぎりを貸して」と私が灌木を切ってみたくらいだ。片づけているはずの切った木も持っていってくれなかった。 それに懲りて、友人にもらった電気のこぎりを使って自分で木を切るようになった。

雑草は専門家に頼むと、抜かずに切ってあとは除草剤を撒くというやり方だから、鹿に毒になると思い、雨上がりに自分で抜くことにした。これが大変な仕事で、うっかりしていると雑草は腰くらいの高さまで伸びてしまう。特にあざみに似た棘のある雑草は小さいうちに抜かないと、しっかりと根を張って抜けなくなる。

夫は全然庭に関心がない、カーテンを閉めて荒れた庭を見ないようにするくらいだ。
韓国の貴族生まれの彼曰く、貴族というのは一切生産に携わらない階級であり、自分の手を汚す仕事はしないのだそうだ。それにしては彼の仕事は、生産管理だったりして皮肉なものだ。

それでは我が家での手を汚す仕事は誰がするのか。夫が昼寝中、私がわざと音を立てて電気のこぎりを使っていても彼は平気の平左。助け手は夫ではなく、鹿達で、私が切ったレモンの葉や蔦が大好きでそれを食べに来てくれるので、掃かずにすむ。

裏庭の先が坂になっていて、そこの雑草のすごさ。ここは大変なので、一回専門家にやってもらうことにした。時間がかかる難儀な仕事だと思って交渉の結果、七百ドルで応じたのだが、見ていたら、ただ、刈るだけ。電気のこぎりのコードが届きさえすれば、私にもできるのではないか。

そこで、長いコードを手に入れたので、それを三本つないで、自分でやってみた。すっかり枯れて背丈ほど伸びた雑草を日が陰ってから、少しずつやっていった。腰も痛くなるし、坂になっているので足場も悪く、やりにくかったが、それにしても、七百ドル払う必要はない仕事だ。注意していたのだが、その際、やはり、一本のコードを間違えて切ってしまった。

雨が多い年には、雨を縫っては雑草が小さいうちに抜くようにした。そして、一か所にマーガレットを植えた。キク科のものは匂いがきつく、Deer Freeだと近所の方に教えてもらったからだ。つまり、鹿の好みではないのだ、

その後、鹿の家族はしばらく姿を見せなかった。それでも鹿がお座りになる場所は取っておいてあげた。隣の奥さんは獣医さんだが、お花が見事な庭を鹿から守るため、金網の柵に電気を通して鹿を威嚇していた。

その我が家は、サンフランシスコ湾のビューがあることと、鹿が庭で見られることが歌い文句なので、花が食べられても、そんなことまではしたくなかった。マーガレットのせいか、鹿がしばらく見えなくなって寂しい気さえした。

ある時、使い慣れた電気のこぎりが、使っている時に煙を吹き、モーターが焼けてしまった。「新しいのを買ってあげるね」と、夫は私の誕生日にコードレス電気のこぎりを買ってくれた。

膝が痛くて薬を飲んでいる私に「膝が治るまで庭仕事はしてはだめ」と言いながら、自分がやろうという気は一切しないらしい。未亡人と思えば腹もたたない、膝は痛いが早速のこぎりを試してみた。前のより軽くて、コードレスというところがいい。レモンの木と、からまっている蔦を相当切った。切っているとスカッとする。

翌朝起きたら、その切ったレモンの葉と蔦を食べに、六匹くらいの鹿が庭に来ていた。なんと、たくさんの鹿の糞が点々と。草食動物だから臭くはないが、これを隣にシャベルで投げるわけにはいかない。

渡米してから今まで何回引っ越しをしたことか、いろいろな所に移り住んだ。この北加の家の後、また南加に引っ越した。今まで結婚してから計12回引っ越したことになる。
これからもどこに住むようになるかわからないが、そこではどんな庭が待っているだろうか。

最後の引っ越し先の天国ではさぞやすてきな庭が待っていることだろう。どこも住めば都だが天国に勝る所はないだろう。                 

竹下弘美

にほんブログ村 子育てブログ 子供の教育へ
子育て・子供の教育・ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックをお願いします。

2 Replies to “住めば都”

  1. 素敵な庭を思い浮かべます。
    日本の狭い庭とは比べ物のにならない大きさでしょうか。
    想像力をたくましくして読ませていただきました。

  2. すてきとは大違いで、荒れた庭でした。
    でもそのあと、デッキを作り、きれいにしましたが、
    またそこにも鹿がきていました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA